銭湯研究の第一人者・町田忍氏がこっそり教える、都内のレトロ銭湯
以前の記事で、編集部では「デザイナーズ銭湯」を紹介しましたが、今回は地元の住民から愛され続ける老舗の銭湯に注目。
長年、日本国内のあらゆる銭湯を取材している銭湯研究の第一人者でエッセイストの町田忍さんに、都内でおすすめのレトロな銭湯を5つ紹介していただきました。
老舗のレトロ湯「タカラ湯」
足立区北千住の旧宿場通りを越え、荒川方面にある老舗のレトロ銭湯。
昭和13(1937)年に建てられ、お寺や神社と同じ様式である「千鳥破風」の宮造り。その堂々たる外観は、低い建物ばかりの住宅街の中でひときわ目をひく。
玄関上部の「宝船に乗った七福神」の飾り彫刻は当時、これだけで小さな家が一軒買えたというほどの費用をかけて作られた豪華なものだ。透かし彫りの波や福神の表情など、職人技が光るディテールをぜひとも鑑賞していただきたい。
この銭湯の最大の見所は、なんといっても贅沢なまでに広い「日本庭園」である。四季折々の花が楽しめる長い縁側の向こうには池があり、およそ数十年は生きているという新潟県小千谷市からもってきた錦鯉が何十匹もゆったりと銀鱗を輝かせている。
この庭は、かつて専属の庭師と大工さんもいたという凝り様だ。現在はもっぱら、店主が独学で庭木の剪定を学び、自らハサミを動かしているという。
この縁側で湯上がりに一休みするだけで「至福の時間」を過ごせること請け合いだ。
さて、タカラ湯さんの建っている一帯を、私は「銭湯のゴールデン・トライアングル」と名づけた。それは、このエリアに東京を代表する「名銭湯」が集中しているからだ。よくキング・オブ銭湯と呼ばれている「大黒湯」もすぐ近くにある。
タカラ湯
住所:足立区千住元町27-1
Tel: 03-3881-2660
定休日:金曜
営業時間:15:00-23:30
昭和レトロだけどハイテク「はすぬま温泉 」
大田区は現在、都内で銭湯の軒数が最も多く、その数なんと70軒。さらに天然温泉(黒湯)も都内で一番多いという激戦地区だ。そんな大田区に、変わり種のレトロ銭湯「はすぬま温泉」はある。
創業は39年前、お湯はもちろん天然温泉である。2017年12月16日に全面リニューアルしたが、「近代化」とは真逆の、昭和レトロな雰囲気に改装したという実にユニークな銭湯である。
まず、その外観は木材で格子状に作られた趣ある佇まい。それを見ただけで、この銭湯が「只者ではない」ことがわかる。
かつては入口の番台でお金を受け取っていたが、現在はフロント形式に改装。床にあいた丸窓の中に鯉が泳いでいるが、実はデジタル画像である。実にハイテクなレトロ銭湯なのだ。
脱衣場に入ると目の前の白壁が目に入る。ご主人の近藤和幸さんによると、この白壁は漆喰仕上げで、本物の手作業にこだわったという。建物全体に天然木をふんだんに使用しているため、ここにいるだけで心が和む。
浴室に入れば、大きなタイル絵。男女の境となる壁には、四季折々の日本画も描かれている。かつての「懐かし銭湯」が、現代に見事に蘇った。
はすぬま湯
住所:大田区西蒲田6-16-11
Tel:03-3734-0081
定休日:火曜
営業時間:15:00-25:00